Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Chapter 6: The End and a New Beginning
Part 23
「なにを・・?」
真沙緒はハインラインが再び要塞へ向こう進路を取ったことに気が付いた。
「ミズタニ艦長!何故、ハインラインは要塞へ向かっているのです?」
『特攻をかけるそうだ』
「そんなの無茶です!!」
『私もそう言った!』
特攻を掻ける場合、乗り組み員は降りなければならない。
現在、混乱している各艦にその人数を回収する力がない。
それに脱出ポッドの姿を見たら、あの男はすぐになにが起きるのか分かるだろう。
そして、それらを狙撃するかもしれない。
そんなことをさせるわけにはいかない。
「薫!どういうことなの?!」
『真沙緒!なんとかして、艦長が!!』
後ろでフォルスリングの笑え声が聞こえる。
とても正気とは思えない。
このままでは。
「ミズタニ艦長。私、ちょっといってきます」
『分かった…。君にまかせる』
ミズタニがそういうと真沙緒のTran-ZSSを押さえていた整備ロボが離れた。
一刻を争うときだったので、真沙緒はすぐにハインラインへ向かった。
カタパルトデッキの上に着陸し、機体をランに預けるとすぐにブリッジに向かった。
入った瞬間、真沙緒はフォルスリングの前に出る。
そしてそこで一度息を呑んだ。
フォルスリングの姿はまるで年老いた老人に見えた。
まだ、白髪が少なかったのに、今はどうだろう。
一気に老けたのか、彼の頭は真っ白になっていた。
顔は皺だらけである。
「艦・・・長?」
「零少尉か。ここでなにをしている?退去命令がでているはずだぞ」
うつろな目。
緊張が彼をここまでにしたのだろうか。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「艦長、特攻をかけるとはどういうことですか?」
「そのままの意味だ」
「しかし!戦艦一つでは…!」
「だまれ!!」
フォルスリングの目は叫ぶと同時険しくなった。
「命令に逆らうことは許さん!これしかない!」
「そんなの命令ではありません!ただの馬鹿です!」
「なにぃ!貴様ぁ!上官に向かって!」
「まだ、あそこにはフェナがいるんですよ?!」
「一人のために人類を犠牲にできない!」
「そういう意味ではありません!」
「ほほう、ならばどういう意味かね?TAで一つであの要塞がどうなるかとでもいうのかね?」
「はい」
この発言にフォルスリングは目を丸くした。
真沙緒は自分でなんでそう答えたのかわからない。
理由といえば、Tran-DSzは普通の機体ではないから、というところだろう。
「ふ、ふははは!これは傑作だ!そんなの無理だ!」
「艦長!」
「命令の変更にはない!我が艦はあれに特攻をかける!それですべてが終わる!ははははは!!」
「…」
ばき!
ブリッジの乗組員がいま起こったことに目を丸くした。
真沙緒がフォルスリングを殴ったのだ。
それも、思いっきり。
フォルスリングはそのままブリッジの床の上に倒れた。
真沙緒は彼の姿を見もせずにブリッジを後にしようとした。
「後は頼みました」
「ちょ、ちょっと真沙緒!」
薫は席から離れ真沙緒を追った。
他の者はただ、今のことでまだ驚いていて固まったままだった。
「どこにいくの?!」
おいついてきた薫が真沙緒を止める。
「決まってるでしょ?」
「だめ!!」
「いかなきゃいけないの!わかっているでしょう!」
「なんで、真沙緒がいかなきゃいけないの!あのフェナという人に任せればいいでしょう?!」
「あなたまで、なにをいっているの?!」
「だって、だってぇ〜」
薫は真沙緒に抱きついた。
「しんじゃうよう」
「死ぬ気はさらさら無いわよ」
そういって真沙緒は薫を引き剥がした。
「だめ!いかないで!お願い!!」
「…」
「お願い…」
薫はそこで泣き出した。
いままでわがままを言わなかった薫が始めてわがままをいった。
いつでも彼女は真沙緒の都合に合わせてきた。
これだけは薫は引き下がるつもりは無かった。
二人離れて死ぬのはいやだった。
どうせなら、一緒に…。
めそめそ、泣いているところ、薫の顎が上に向けられた。
そして、あたたかい感触がした。
「!!」
短いキス。
しかし、そこにこめられた思いは薫にすぐ理解できた。
「真沙緒ぉ〜」
涙が止まらない。
「大丈夫だから…」
真沙緒はそういって薫の体を抱いた。
薫はしがみ付き、泣き出した。
このまま時が止まればいいのに、と薫は思った。
しかし、それはない。
真沙緒はやがて離れた。
そして、格納庫へと向かった。
「いってらっしゃい…」
真沙緒の背中に薫はただその一言をいい、自分の持ち場に戻った。
○
そのころ、フユツキで一つ問題がおきていた。
「二人はどうした?!」
「わかりません!医務室から姿を消したまま!」
「こんなときに!」
グレナディアが要塞から連れてきた二人が姿を消していたのである。
それも治療が完了するまえに。
医務室の証言によると、治療がある程度完了したとき、男が起きたらしい。
そして、信じられない力でそこの警備兵をなぎ倒して、女性をつれて艦内に逃げたとのことだった。
グレナディアがそのことを聞いた瞬間、頭を抱えた。
そして、二人を探すため、艦内に入った。
敵の工作員かもしれないということで、警備兵は必死に探しているが、見つからない。
「大丈夫か?」
「え、ええ。ロイスは?」
「なんとかな」
その二人、ロイスとクリスは警戒しながら艦内を進んでいった。
しかし、無駄な殺生はしないでというクリスの願いを聞き入れ、ロイスは銃をもってない。
気絶させた兵はいるが。
「もう一人のほうは?」
「え?」
「二回言わせるな」
「あ、うん」
クリスは顔を真っ赤にして腹を押さえた。
心が通じているのか、クリスはしばらく目をつぶっていた。
「大丈夫だって」
にっこりと答える。
「わかるのか?」
「母親ですもの」
「それは…そうだが」
今度はロイスが顔を真っ赤にした。
顔を背ける。
クリスはその仕草がおかしくて小さく笑う。
「いくぞ!」
「あ、ちょっとまってよ」
耳まで赤くしているロイスについていくクリス。
(もうすぐ、だからね)
クリスは自分の腹にいる命にいった。
(うん!)
となにかが答えた。
再びクリスは笑った。
と、その時である。
「いたぞおおおお!!」
「く!しまった!」
警備兵が通路の先に現れ、おかまないなしに発砲してきた。
ロイスはなんとか彼に突進し、顔に一発叩きこむ。
警備兵はその一発で倒れた。
鼻が変な形に曲がっていた。
「クリス!!」
「う、うん!」
二人が向かうのは格納庫。
そこでTAを拝借して逃げるという寸法であるが…。
あそこは警備が濃いので、どうするか、ロイスは困っていた。
(やっぱり強行突破しかないか?)
その時である。
「ねえ、ロイス」
クリスが一つの部屋をのぞきこんでいた。
「おい、なにをやっているんだ!」
「ここ、パイロットルームよ」
それを聞いたロイスは閃いた。
「ねぇ、ロイス。これに着替えたら、行けるんじゃない?」
クリスに答える前にロイスはすでに行動に移っていた。
患者ようの服を脱ぎ捨て、パイロットスーツを着始めた。
クリスも黙ってやる。
二人の考えは同じだったようである。
そこの次の扉のところは格納庫のはずである。
準備が出来次第、二人はヘルメットをかぶる。
そして、格納庫へと出た。
「なんだ、貴様ら!」
しかし、そううまく行かない。
この艦にパイロットはもうすでにいない。
機体だけが残っていた。
そこで、パイロットスーツを着た二人がいる。
前線離脱の命令が出ているのにだ。
「く!」
ロイスはその警備兵を殴り飛ばすと、一番近い機体に走った。
クリスがそれに続いた。
他の警備兵がだまっているわけがなく、二人に向けて発砲する。
しかし、何故か弾が当たらない。
「クリス!!」
「大丈夫!」
奇跡に近いところで、二人はTAに乗りこんだ。
ハッチを閉じる。
何故か、もうすでに起動されていた。
無が夢中でロイスはTAを動かし始めた。
TAベッドからTran-ZSが動きだす。
兵器とシールドと取ると雨のようにふる銃弾の中、カタパルトデッキに出た。
しかし、そこには行く手を阻むTAがたっていた。
『どこかにいくつもり?』
通信機から女性の声が聞こえてくる。
「じゃまをするな」
「ロイス!」
『ロイスというのか?あんた』
「人に名前を聞くときは自分から…」
『名乗れってんだろ?あたしはグレナディア・エルミ−ニャ』
「グレナディアさん、お願いです。行かせてください」
クリスが訴えた。
『理由を聞かずにはできないね』
「言う必要はない!」
『助けてやったのに、そんなことをいうのか、あんたは』
本当はこんなこと、グレナディアは言いたくなかった。
なんか立場を利用しているように感じられたから。
「じゃあ、あなたが?」
『そうだ、偶然あの部屋についたらあんたたちがいたわけだ。それで連れてきた』
「ありがとうございました」
クリスが礼をいう。
『しかし、それとこれは違う』
「あの男は危険だ!!ここでなんとかしないと!」
『あんた達でなにか出来るというのかい?』
「できる!」
『ふう・・・、どうします?艦長?』
『いいだろう…借りもあるしな』
すべてお見通しだったような言い方である。
しかし、この決断についたのは実に簡単なことであった。
彼らの艦内の行動だ。
兵は一人も殺していない。
それに格納庫へむかっているようだった。
これは工作員でもなんでもない。
あの男の部下だったら、この船はすでにないだろう。
「借り?」
『あんた達だろう?あのとき、あたしを助けたのは…』
「あ…。でもなんで?」
『簡単なことだよ』
いや、実はそうでもなかった。
じつはこのこと、グレナディアは女の勘といって艦長にいったのである。
そして、その証拠をロイスとクリスの行動で証明した。
むちゃくちゃなと言われたが、つじつまは出来ていた。
グレナディアも実は不安だった。
しかし、確信出来たのはロイスが「あの男」といったときである。
ステファン…。
彼の名前とどんな奴かは真沙緒とフェナからすでに聞いていた。
同じ敵をもったものである。
彼らなら、弱点をしているかもしれない。
なら、協力してもらうことにすれば。
実にリスクの高い話しだ。
しかし、今はそうはいっていられない。
『寛大な艦長がいて、おまえ達は運がいいよ。ただし、あたしと行動してもらうよ』
「わかりました」
「クリス!」
「この人を信用しましょう」
「しかし!」
「文句ある?」
「う、うぐ!」
ギロリとクリスににらまれたロイスはなにも言えなかった。
『あはは!あんた尻敷かれているのかい?』
「なんだと!!」
「そんなことより…」
『そうそう、さっさと行きますか。まず、ハインラインに行かないと』
「え?」
『それだと飛べないだろう?パーツをもらいに行くのさ』
「いいんですか?」
『いいんだよ!』
「ありがとう」
『さっさといくよ!!』
そういうとグレナディアはハインラインへむけて飛び去った。
ロイスは一瞬とまどったが、クリスは悪魔のような笑みをするので、仕方なしにグレナディアを追った。
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