Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Chapter 6: The End and a New Beginning
Part 24

暗く長い通路をTran-DSzは進んでいった。
抵抗するものはいない。
前に倒したキラードールから吸い出した情報を頼りにCalamiteは突き進んでいた。
フェナはというと、まだ放心状態だった。
しかし、手はしっかりと操縦桿を握っていた。
コクピットは肉の腐敗の匂いと血の匂いで充満していた。
計器に血と肉片がこびりついている。
ショートを起こさないのが奇跡に近い。

-We are approaching a hatch-
(扉に接近)

そう報告すると同時にCalamiteはTran-DSzを止め、プラズマソードを取り出す。
扉に突き刺すと、ゆっくりとそれを切り裂いていく。
しかし。

「うわあああああああ!!!」

フェナが叫びだした!

「ゆるさないぃい!」

フェナが暴れだす。
Tran-DSzを中へ戻させようとする。
しかし、Calamiteがそれをゆるさない。
フェナとCalamiteの間でTran-DSzの支配権の取り合いになり、Tran-DSzは戻ろうとするが、次の瞬間扉へ向かう。

「じゃましないでぇえ!あの男!あの男を!」

-You must not go back!-
(もどってはだめだ!)

「うるさい!!!」

-We must leave here first-
(ここをまず脱出しなければいけない)

「うるさい!うるさい!うるさい!あいつはかあさんを!」

-I know its hard on you, but...-
(つらいのはわかるが、しかし・・・)

「機械のあなたにわかるわけないでしょう!!」

その一言。
それがCalamiteの逆鱗に触れた。
AIに逆鱗があるのかわからない。
しかし、Calamiteはその一言で押し黙り、行動に出た。
そして、コクピット内に火花が飛んだ。

「ぎゃう!」

電気ショック。
一瞬だったが、フェナをひるませることは出来た。
その一撃でフェナは動けなくなった。
しかし、意識は消えていない。
おそらく、Tran-DSzが主でないものにのっとられたときにパイロットを殺さずに、計器を破壊しないような威力で組みこまれたものだろう。
Calamiteはそれを使ったのだ。

-I know how you are hurt!  I know what iit feels! Your mother was also my mother!-
(傷ついているのはわかる!俺にもわかるんだ!あなたの母親は俺の母親でもあるんだ!)

そんなはずはなかった。
Calamiteはフェナが作ったものだった。
感情なんていれてないはず。
だが、いまのCalamiteはフェナに怒鳴っていた。
もう一つ。
CalamiteはあくまでもWileのプログラムをベースにしたものだ。
だからどこかにWileの存在が残っていたのかもしれない。
まあ、正確にいえば、フェリスはCalamiteの祖母になるのであろうが、そんなことは今の問題ではない。

-She is dead! She will not return. You hhave to realize that! And the fact that you have something else to worry about now!-
(あの人は死んだ!帰ってこない!あなたはそれを理解しなければならない!そして、今のあなたは他に心配しなければならないということを!)

フェナはそのことで正気に戻ったのか、無理に動こうとするのをやめた。
そして彼女の目はなんとか、後ろに座らせているフィオに向けられた。
フィオはまだ起きていなかった。
シルフィードはなんとか彼女をおこそうとしていたが、効果はなかった。
フェナの目からぽろぽろと涙が流れ始めた。
やがて大声でフェナは泣き出した。
理由は必要無かった。
ただ、ただ、泣きたくなったのだ。
自己嫌悪、後悔、いろいろなものがフェナの心を駆け巡った。
それをすべて吐き出そうとフェナは大声で泣きつづけた。
Calamiteはその間に扉へ向き直った。
プラズマソードが再び扉へ突き刺され、円が描かれていった。
そして、どれぐらい時間がたったのか、フェナの泣き声が止むと同時に、Tran-DSzのセンサーは扉の先になる蒼い空を映した。




寒い。
暗い。
さびしい。

暗闇に包まれていたフィオは自分の体を暖めようとまるくした。
しかし、音のない暗闇の寒さは骨まで染みるようなものだった。

「どこぉ?さむいよぉ」

だれかに答えてほしくてフィオは聞いた。
しかし、だれも答えない。
自分の声が空しく、その空間に響くだけであった。

「寒いよぉ、暗いよぉ、さびしいよぉ」

なんでこうなんったんだろう?
あの男は自分があの女を殺せば幸せになれるといった。
しかし、いまはどうなのだろう?
こんなの。
こんなのは自分が望んでいたものではない。
自分が望んだ幸せではない。
でも。
でも・・・。
自分が臨む幸せってなんなの?
そんな疑問をもったときであった。

『わからないの?』

声が響いた。

『自分がなにがほしかったのかわからない?』

「だれ?」

『自分のこともわからなくなっちゃっているの?』

自分の声。
いや、もっと子供の声だ。
だれの声なのかを理解しようとフィオが周りをみたときであった。
蝋燭がつくような光が彼女の目の前に現れた。
そしてそこには小さな要請が現れた。

「?!」

いや、妖精ではない。
自分であった。
ただ、今の自分より小さい時の自分であった。

『私はフィオリーナ・・・。あなたは?』

「え?」

『私はフィオリーナ。あなたは?』

「わ、わたしもフィオリーナよ」

小さなフィオはこくっと頷いた。

『なんでここにいるの?』

「なんでって」

『なんでここにいるの?』

「わからない・・・」

『知りたい?』

これにフィオは頷く。

『つらくても?』

「え?」

『つらくても?』

これに答えるにはフィオはしばらく考えた。
つらい?
今の自分はつらい。
こんな暗い、寒い、さびしいところにいるのだから。
ここを早くでたい。
温まりたい。
楽になりたい。
そんな感情が彼女を頷けさせた。
それに小さなフィオもうなづいた。
そして二人は真っ白な光に包まれた。

「え、あ、うあ・・・。うああああ!」

なにかに引きこまれる感触・・。
映像が次々と頭のなかに流れこんでくる。
黒い感情が自分の心を覆い尽くす。
フェナが自分の前にたっていた。
そしてその後ろには赤と黒のTA。
何故か嬲り殺したい感情が生まれる。
それに対して、フェナを攻撃するところ、フェナを銃で撃つところの映像が映し出される。

「やめてやめて・・・」

なぜか、どこかでそれを止めようとする感情が自分の中で叫ぶ。
ステファンのにやけた顔。
彼の傍に嬉しそうに、幸せそうに横たわる自分。
しかし、それはなにかが違う。

『それがあなたを幸せにさせてくれるでしょう』

聞いただけで、鳥肌が立つ男の声。
ちがう、ちがうとフィオは頭を振る。
その飛びまわる映像の最後にあったのは、無抵抗に立つフェナ。
そんな彼女に容赦無く、銃を撃つ自分。
飛び散る血、ゆがむフェナの顔。

「や・・やめて」

すべてがおわったとき、フィオは泣いていた。
フェナを憎む感情があったのに、いまは後悔と罪の意識しかなかった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・」

『わたしに謝れてもこまるんだけど』

小さなフィオは顔色を一つ変えず言い放つ。
しかし、フィオは泣き止まなかった。
寒さが自分の肌に食いこむ。
暗かった空間はさらに暗くなったような気分だった。
いくら泣いたのかわからない。

『それで、あなたの幸せってなに?』

なんでまたそれを聞くの?
とフィオは小さなフィオにらみつけた。

『私のを見せようか?』

問われて答えられる前に、場面がまた変った。
その瞬間である、急にフィオの体が暖かくなったのは。
そこには小さな自分がだれかに抱かれて寝ているのだ。
その誰かというのは・・・。
場面がまた変る。
今度は海岸。
誰かと波が押し寄せる海岸で水かけあっている。
場面が変る。
怒った誰かの顔。
しかし、誤ったときにそっと抱かれた柔らかい、暖かい感触。
場面が変る。
一度も着たことがない服をきて、誰かの髪をいじっている。
ありがとうといわれる自分。
その後、おなかが破れそうなほどに食べる自分。
そんな自分の姿をやさしく見守る誰か。
だれかわからないと男をみる自分。
なにか胸が高鳴る自分。
そして最後に、荒れ果てた町を見下ろす自分を後ろから抱いている誰か。
それがゆっくりと消える。

「おかあさん・・・」

フィオはまた涙を流していた。
自己嫌悪がある中、母と呼んだ人のぬくもりを自分は求めていた。

「ひっく・・・」

涙が止まらない。
どうすればいいのかわからない。
罪の意識と甘えたい気持ちが衝突する。
自分はどうすればいい?
どうすればいい?
その時であった。
小さなフィオが手を差し出した。

『いこ?』

「で、でも」

『いこ?おかあさんのところに』

長い沈黙が訪れた。
フィオは目を泳がせ困っていた。
なんといえばいいのだろう?
フェナに会ったとき、なにをいえばいいのだろう?
だが、自分の手は自然に小さな自分へと伸びていった。
まるで体は分かっていたかのように。
手が触れ合ったとき、フィオは分かった。
二人が手をつないで歩きだす。
そこに現れた光の元へ。
そしてこういうのだと決めた。

『ごめんなさい』

そして、

『ただいま』

と・・。




ハインラインの整備班にはいつも驚かさせれる。
これが真沙緒の正直な気持ちであった。
ハインラインの格納庫には今4機のTAがうつぶせに寝かされていた。
そしてその背中には…。

「ほんとにあなたってすごいわ」

「ちゃかさないでくださいよ」

真沙緒は手を腰に当てながらいうセリフにランは答えた。

「フェアランス少尉みたいな考えね。無茶もいいところよ」

「はぁ・・」

ランは頭を掻きながらチェックリストに目を通した。
目の前にはスターレイピアを半分強引にTAと合体させたものがあった。
これでTAも飛べる。
というわけにも行かなかい。
あの要塞を攻略するにはどうしても三次元に動くものが必要だった。
そして、一番機動性がある機体・・・。
真沙緒、アーリー、グレナディア。
彼らが操る機体が一番の能力を持った機体であった。
クリスとロイスのTran-ZSは標準装備のハイランスよりはましだった。
ほかのTran-ZSは大破されており、使い物にならなかった。
それで、スターレイピアとTran-ZSのハードポイントを利用して両機をつなげたのである。
もちろん操縦系統が合うはずがなく、その調整が必要だった。
しかし、ランはそれをいとも簡単にやり遂げた。

「動かしてみてください!」

『了解!』

その答えと同時に、スターレイピアの翼が動く。
左右、上下に動き、操縦系統に問題がないことが示される。

「本当に驚きだ・・」

グレナディアもコクピットの中で呟いた。
それもこの短時間の中でよくここまでと思ってしまう。
彼の将来がちょっと楽しみにできるかしれない。
あの気弱さえ直ればの話しだが・・・。

びーびーびー!

アラームが鳴り、格納庫は赤い光に包まれた。
コクピットに戻った真沙緒はすぐに情況説明をブリッジに問い出す。

『要塞が発砲!!あ・・でも・・』

「なによ!」

『我々にはではありません。あ・・・。映像を送ります!』

そこに映されたものは….

「フェナ!・・・・全機、ただちに発進!Tran-DSzを援護せよ!」

映し出されているのは要塞の濃い対空砲に押されているTran-DSzであった。
PDSがなんとか攻撃を押さえているが、真沙緒にはその動きが少々・・・普通に見えた。

「いったいどうしたってのよ!」

『Tran-ZSS、零少尉、Tran-D、アーリーさん、発進してください!』

「「了解!!」」

『次はクリスとロイスさんです!』

「ああ」
「了解です」

リニアカタパルトが静かに真沙緒とアーリーを空に飛ばした。
二人は発進と同時にスロットルを全開にして要塞へと向かっていく。
その次にクリスとロイスが発進。
そして最後にグレナディア。
頼みますというのが、艦隊すべての人間の思いだろう。
エルファの運命はここでTA六機にゆだねられた・・・。

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