Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Chapter 6: The End and a New Beginning
Part 25

『どこへいくというのですか?』

冷たい、いやな声が通信機から伝わってきた。
フェナは答える余裕がない。
次から次から発砲する、要塞の砲塔。
それをよけるのに、せいっぱいである。
避けきれない、威力が弱いものはPSSが止めてくれた。
しかし、体が重い・・・。
これほど、元の体が重いとは思ってもみなかった。
当然なのかもしれない。
自分がこの7年間「入っていた」体は戦闘向きのものだったのだ。
女性の形をした兵器だったのだから。
武器はプラズマソードしかない。
そして要塞がいま張っている弾幕に対して近づくことさえできない。
要塞に対抗するには、飛び道具が必要になる。
しかし、それを運んでいるRRも対空砲で近づけない。

「はあ、はあ」

人間の体、それも7年間も動いてない体にTran-DSzの操縦は困難であった。
なにせ、普通の人間に動かせるものでないのだ。
あくまでもフェナ、前の体のフェナようの機体である。
しかし、いまのそんなことに言っていられない。

「こ、こんなことで!!」

フェナは必死にTran-DSzを操る。
しかし、体全体が硬くなっていく。
腕が言うことを聞かない。
パターン入力が遅くなる。
重い、遅い。
生身を嫌うほどであった。

「そうか!・・・フェンネル射出!」

ターゲットを砲台の一つにロックさせ、六つの小さな光がTran-DSzから放たれた。
指定された標的を攻撃するが、効果はない。

『無駄ですよ・・・くくく・・・次の発射まで時間はありませんよ?どうします?戻ってきてくだされば、やめます』

そんなでたらめなことをいうステファンにフェナはさらなる怒りを感じた。
しかし、手も足も出ない。

『そうですか。 それでは死んでください』

その言葉で要塞のすべての砲台が一斉にTran-DSzに向かって放たれた。

「く!」

フェナはPSSをすべて正面に固めた。
いくつかの光弾が止められた。
しかし、砲台がすべて発射されたのだ。
一方向からくるわけがなく、Tran-DSzは下から、後ろから襲われた。

「きゃあああああ!!」

警報がなり、フェナの体は乱暴に揺さぶられる。
なんとか機体を持たせようと頑張るが、腕が動かない。
体が固まったようだった。

『さあ・・・死んでください』

ステファンが笑いを上げると同時に無数のミサイルがTran-DSzに向かって放たれた。

「Calamite! パターンE!」

-Roger-

とっさに叫んだ命令にしたがいCalamiteはTran-DSzを動かす。
バルカン砲を放ち、TVSを利用して急激な回避運動をする。
向かってくるミサイルをバルカン砲で撃ち、または避けていく。
上、下、右、左と推力をあらゆる方向に反転しながらTran-DSzはミサイルをよけていく。
ミサイルは次々と放たれていく。
それをよけるCalamite。
だがその動きがフェナの体力を消耗していく。
腕と足が硬くて動かせない。
そして次からつぎへとくるミサイルとビームの攻撃。
よけることしかできない。
それがフェナにとって無償に悔しかった。
なんとか硬くなった腕と足を柔らかくしようと必死にマッサージする。
医療キットになにかないかと手を伸ばそうとするが、Tran-DSzの動きにより発生するGで体が届かない。

『くくく、どうしました?いつものの動きを見せて下さい』

本当にいやな奴、とフェナは小さく呟いた。
しかし、いまさらなにか出来るわけではない。
なんとか隙ができれば、RRを呼び寄せることが出来るのに。
要塞は隙を見せようとしない。
Tran-DSzはまるで、ミサイルとビームで作られた檻の中に飛びまわる小鳥に見えた。

『あはははー!次の発射まで時間はありませんよ!』

「く!させるものですか!!」

その言葉を発すると同時にフェナはコントロールステッキを掴み、Tran-DSzを砲台へと向かわせる。
無駄と分かっていても、なんとかしなければならなかった。
襲ってくる光線とミサイルを回転しながらTran-DSzは砲台へ近づいていく。
時々ビームが掠するが、PSSがそれを止める。
ミサイルはファンネルとバルカン砲で始末する。
そして砲台のそばに辿りつくとフェナはTran-DSzを砲口へと上昇させた。
プラズマソードを二本取り出し、大きく振りかぶった。
そして、推力を下に向かわせそのまま二本とも、振り落とす。
火花が飛びちり、なにかが赤く光る。
そのままTran-DSzは砲台を両断しようとプラズマソードを砲身に当て、下へと全速力で向かった。

「このぉおおお!!」

プラズマソードに出力も最大。
細長いプラズマソードが幅広い鉈のようになる。
ビームが砲身とぶつかりあい、ガリガリガリといやな音を立てる。

『ふははは!そんなものではどうにもなりませんよ!』

しかし、フェナは抵抗する操縦桿を思いっきり押しこむしかできなかった。
そして、要塞の上に到達した。
すぐさま砲身へと目をやるが、そこにはでな傷しかできていなかった。
砲身そのものにはダメージがないに等しい。

『さて、もう後10分しかありません。くっくっく…』

「そんなところにいずに出てきたらどうなの!!」

『ご心配なく、あの街が消えたとき、ゆっくりと相手させていただきます』

絶対絶命。
この情況をほかにどう表せればいいのか?
人間はこういうとき、信じもしない神に祈りたくなる。
フェナはいままさに手を合わせて祈ろうとした。
だが、その必要はなかった。
救いの手はもうすでに向かってきていたのだから。
そして、「あれ」がアルのだから…。
それがあると思い出したフェナは迷った。
しかし、フィオに目をやって彼女をみた時、フェナの目つきが変った。






「もうなにやっているのよ!フェナは!」

真沙緒はTran-DSzの動きを見ながらいらいらしていた。
前のような切れがある動きはない。
ただ、ふらふらと攻撃をよけているだけであったのだ。
そして今は敵地の中心にいてたっているだけである。

「みんな!バリアの境界線に入ると同時にミサイル一斉発射!後は各自の判断で動いて!」

『了解!』

『わかった・・・』

『わかりました』

『言わなくても分かっているよ!』

アーリー、ロイス、クリス、グレナディアの順で返事が返ってくる。
目の前に迫ってくる要塞。
ミサイルの大半をフル・スプレッドに設定にし、後はオートで目標を指定する。
スクリーンに無数とも言えるロックサインが表示される。
一斉発射まであと・・・。

10

9

8

7

6

5

4

3

2

1

「全弾発射!!」

その瞬間、各機の背中に付いているスターレイピアについているミサイルパックから無数のミサイルが放たれた。
空になったコンテナが切り落とされ、他はレーザーライフルを手に取り、乱射し始める。
無数のミサイルは要塞のPDSにやられまいとジグザグに動き、指定されたターゲットへむかっていく。
ミサイルから吐き出される煙がまるで無数の蛇が要塞に食らいつこうとしているように見せる。
それに対して要塞から無数の光が放たれる。
まるで隙がない中、ミサイルが次々と落とされていった。
しかし、なにせ、数が多い。
かなりの数が撃ち落されず、そのまま標的へ向かっていった。
そして要塞へ接触する前、ミサイルの弾頭がひらき、そこからミサイルがさらにばら撒かれた。
MIRV(Multi Impact Release Vehicle) と呼ばれるものである。
一本のミサイルは実はその中にさらなる弾頭を隠していたのである。
結果、要塞は雨の襲われた。
そして無数の爆発が起こる。
その一つ一つがかなり威力をもったもので、要塞全体が火の玉に覆われる。
一発のミサイルでは要塞の兵器はなんともないかもしれない。
ただ、核弾頭の0.25倍の威力をもったものが一斉に着弾すれば、ただではすまない。
言いかえれば、まさに要塞に核弾頭が数十個落とされたことになる。
ただ、核弾頭とは別に放射能はない。
要塞の対空砲、ミサイルバンクが次々と消えていく。
遊爆が起こりさらに被害が広がっていく。

『や、やったのか?』

「…」

真沙緒はなにも言わなかった。
ただ、まだ機能する兵器を破壊していく。

『ステファン!どこにいる!!』

ロイスの叫びが聞こえる。
しかし、馬鹿にしているのか、返事の声はない。
各機は独自に要塞に攻撃をしていく。
小さなものだが、確実に要塞の防衛システムは破壊されていった。
真沙緒は、要塞を完全に沈黙させようと攻撃を続ける。
それは皆と同じ。
しかし彼女の目は常に巨大な砲台へ向けられていた。
あれだけの攻撃をうけても巨大な砲台は無傷と言える状態でその砲口を空へと向けていた。
ロイスとクリスが攻撃をするが、砲台がびくともしない。
苛立ちの声が聞こえる。
爆発がしばらく続き、真沙緒はTran-DSzを探す。
Tran-DSzは砲台の根でうずくまっていた。
PSSがTran-DSzを覆い尽くしなんとかダメージを押さえていた。

「フェナ!」

『真沙緒…』

「ど、どうしたのよ?!動きがにぶいじゃない」

通信ウインドーが開き、真沙緒はそこに写るフェナを見て違和感を感じた。
銀髪が金髪に変っており、いかにも普通の女性に見えたのである。

「フェナ・・・?」

『驚いた?これが本当の私・・・』

「え?」

『説明している暇は無いわ。今すぐこの場を離れて』

「な、なにをいっているのよ!そんなことできるわけがないじゃない」

『…』

「みんなでこれを止めようときたのに!そんなことを言われるとはおもわなかった!」

『勘違いしないで…。この砲台は今、トリエスタを狙っているの』

「そ、そんな!」

『後5分で発射するわ』

真沙緒はなにも言えなかった。
今のミサイル攻撃である程度のダメージを要塞に追わせたはずだ。
砲台も無事で済むはずがない。

「ど、どうするのよ!!」

パニックになりそうのを真沙緒はせいっぱい押さえる。

『手はあるけど…。みんなにはここを離れてもらわないと使えないの。お願い…』

そういうとフェナはTran-DSzを飛ばせた。
対空砲はいま沈黙している。
その隙を利用してフェナはRRを呼び寄せた。

「ちょ、ちょっと!」

『いいから、はやく!!』

「な、なにをするつもりなの?!」

フェナはその質問に答えなかった。
RRが訪れる。
Tran-DSzはそこでドッキングするために空中でもう一度スラスターを吹かした後、背中のバックパックを切り離した。
次の瞬間RRとTran-DSzが重なった。
フェナの指が忙しくコントロールパネルを操作する。
細かい動きが生まれる。
右側のコンテナから巨大な筒が右肩のハードポイントにつなげられ、Tran-DSzのセンサーの上にテーゲティング追加センサーが被らされた。
次に、その筒に繋がっているバックパックが取りつけられた。
その作業が完了すると、Tran-DSzとRRはそのまま上昇し始めた。

「フェナ!」

『この兵器は非常に不安定なの、みんなを巻き込むかもしれない』

「そんな!あのバリアを破られると思うの?!」

『破る必要はないわ。あの砲台が発射されると「穴」は出来るから』

「ま、まさか!むちゃよ!!」

『ごめん・・・』

「待ちなさいよ!」

しかし、そこで通信は切られた。

『真沙緒さん、いったいフェナさんは?』

アーリーはまだ沈黙していない砲台を破壊しながら連絡をいれた。
真沙緒はどう答えればこまった。
覚悟を決めてきたのである。
それをいまさら。
しかし、離れないとフェナは・・・。

「みんな一時的に離れて!!!」

『な、なんだと!』

『そんなの!』

「フェナがとんでもないことをしようとしているの!巻き添えを食らうかもしれない」

『ふざけるな!!おれは…!!』

『ロイス!!』

「一時的だけよ、もしフェナが失敗すれば、私達が後始末をしなければならないでしょう?」

みんなが舌打ちする音が聞こえる。
結局フェナに頼ることしかできないのか、と皆思っているのだろう。
くやしいが、その通りである。
そして、後始末は自分ら。
なんともいやな感じだ。
でもそれはフェナは自分たちを信用していることとも言える。
しかし、大きすぎる賭けであった。

「ずるいよ・・」

真沙緒は要塞を離れながらいった。






Tran-DSzがある程度高度をとったとき、動きを止めた。
RRが切り離され、RRはそのまま急激に上昇していった。

『なんのつもりですか?いまさらなにをしたって止められませんよ』

ステファンの声の無視し、フェナは作業を続けた。
息が荒い。
今装備している兵器の調整がうまく行かないのだ。
体がいうこと聞かない。
それでエラーをだしてしまっているのである。
あと2分しかない。
間に合うのだろうか?

「うう!」

指が痛み出す。
急に無理な操作からきたのだろう。
それでもフェナは作業を続けた。
指の関節がひどい痛みをだしている。
唇をかみ、我慢しながら作業を続ける。

「はやくしないといけないのに!!」

焦るフェナ。
兵器が不安定なだけに、誤差の計算をしなければならない。
誤差が有りすぎると兵器の威力は半分以下になってしまう。
そうならないためにもフェナは出来るだけ計算を続けた。
何故か頭の回転が悪い。
体がいうことを聞かない。
いや、聞けないのかもしれない。
あの強化されたも兵器である体ではなく、いまの自分は普通の人間なのだから・・・。
そのころ、超音速で上、上と飛んでいったRRが大気圏を脱出した。
そして、ある高度に辿りつくと機首を地上へと向ける。
そこで奇妙なことが起こる。
RRの機体が割れていったのである。
翼が広がり、その下に隠されていたソーラーパネルが姿を現した。
翼だけではなく、機体のあらゆるところがその装甲の下に保護していたパネルを展開した。
細いアンテナがいくつか伸びる。
その姿まるで宇宙空間で花びらを広がせている花のように見えた。
そのパネルはエルファに降り注ぐ光、太陽の光を集め始めた。
粒子がパネルの周りで光だし、パネルは次第に眩しい光を発しはじめた。

ぴぴ!

エネルギー充填が開始されたと報告がくる。
それに対して、Tran-DSzのバックパックから細長いものが伸びる始めた。
まるで、鳥が、いや、天使が翼を伸ばしているように見える。
しかし、その翼に羽根がなく、骨しかなかった。
だが、そこで時間が切れた。

『ふはははは!!!消えてなくなれぇ!』

ステファンの声がし、それと同時に要塞の巨大砲が火を噴いた。

「し、しまった!!」

計算がまだ終わっていない。
誤差が大きすぎる。
Tran-DSzに巨大な光がせまる。

「く!!」

標的もまだ定めていない。
間に合わない・・。
砲台から伸びる一筋の光はTran−DSzを捉えようとしたその時だった。
宇宙から光が放たれたのだ。
その光をTran-DSzの翼が捕らえ、眩しい光を発しはじめる。
翼に羽根が現れたかように見えた。
天からの光、そして白く輝く翼、その姿はまるで…。
その光のエネルギーは圧縮され、Tran-DSzが構えている筒、いや、バズーカに注入された。
その力がバズーカの銃口に集められ一気に放出された。

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