彼の新しい遊びはそれから毎晩のように続いた。誰も僕らを人殺しだとは知らないようだった。

彼は気に入りのジャケットに身を包んでいつものようにある男と部屋に入った。
僕は数分遅れてその部屋へ忍び込む。
ところがその時に、僕はとても不安だった。

そして僕の耳は確かに銃声を聞いた。

室内に入ると、男がドアに背を向けて立っていた。その向こうに彼が仰向けに倒れていた。
胸元がはだけた白いシャツが一面、深紅に染まっている。

男は動転して蒼白だ。
僕は中へ入ると彼を見た。彼は僕を見ていた。意識はあるようだ。

それに、銃弾で死ねるのだろうか。

僕は彼を抱き起こそうと傍らに膝をついた。


そうして僕は、

既に、

彼が、

死んでいることに、

気付いた。


哀しみというより、驚きが僕を襲った。
それから、例えようのない感覚。

僕は背後の男を振り向いた。
男は依然拳銃を手にしたまま奮えていた。
この男によって、僕の彼はこの世から消えた。
その美しさも、消えた・・・

「死んだよ、もう死んでしまっている」

僕は男に伝えた。そうしながら彼を抱き上げて、彼の開いたままのガラス玉のような瞳を見つめた。
額を覆う髪が横に靡いて、白い肌が僕の目に滲みた。

「きみはきっと・・・きっと良いことをしたんだ」

僕は彼の頬を自分の頬にすり寄せて言った。

「この人は、死んだ方が良かったのだ。その方がこの人は、幸せだったのだ」

僕の言葉に男は拳銃を投げ捨てて部屋から逃げ出した。閉まりつつあるドアから目を放して、僕は彼を抱き締めた。

冷たい身体。
彼はいつだって冷たい身体をしていた。

僕にはだから、まだ彼がいなくなったのだということが、よく理解出来ない。

「ピストルで死ねるなんてこと、あなたは一度だって僕に言わなかったよ。あなたもそれを知らなかったのかも知れない。けど、あなたが僕に教えてくれたのは人を殺すことだけだった・・・・・・生きていくことだけだったね・・・・」

彼を抱き締め、僕は目を閉じた。
まだ彼が生きているような気がして、僕は目の前の死体をとても身近に感じている。けれど。

けれど、もう少ししたら僕にはやっと彼がいないということが分かり始めるのかも知れない。
彼の不敵な笑みもみな過去のことだということに、僕もやがて気付くのかも知れない。

美しい彼は今、僕の腕の中。


朝日が登るのを、僕は待っている。





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