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ジェイムズ・ティプトリー・Jr。
様々な形容詞で呼ばれる人物。
だけど、私は純粋にこの人の名前を呼びたい。
男でもなく。女でもなく。議論の対象としてでもなく、
ムーブメントの一つとしてでもなく。
そんな安っぽい名前じゃない。
そんな俗っぽいモノじゃない。
呼称なんかでレッテルをはりたくない、ただの、
ティプトリー。
読む事でしかこの人とは会えない。
読む事でしか、この人とは会いたくない。
解説もいらない。ファンクラブも欲しくない。
ノイズのない所でしか。余分な偏見のない世界でしか。
彼/彼女は、もう、世界に居ない。
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最初の出会いはこの本からだった。
きっかけは、なんだったのだろう。
あちこちの書評だったろうか?
その少女漫画な表紙だったろうか? あの当時、
そういうのばかりを集めてみようと意図していたのはおぼろにおぼえている。
それとも、そのタイトルからだったろうか?
このタイトルが非常にインパクトだったのもおぼえている。
でも、作中に、そして読後に、それ以上のインパクトを受けて、
もう、忘れてしまった。
たったひとつの冴えたやりかた | ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア |
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THE STARRY RIFT |
James Tiptree, Jr. 一九八七年発行 1986 ISBN4-15-010739-4 カバー・挿絵 川原由美子 |
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鮮やかに、あまりにも鮮やかに輝いて消えた作家。 私の胸に閃光の様に鋭く深く、それ故に血すらも出ない様な傷跡を残した人。 私にとってティプトリーとはそんな感じの人である。 この作品をふと手にとり、「こんなに面白い人がまだ残っていたのか!」 と一気にファンとなり永遠に応援するぞ、ついていくぞと笑顔で決心した途端、 衝撃の作者死亡のニュース。 あの時、自分はどんな表情を浮かべていたのか。 その鮮やかすぎる死に様、憧れすぎる生涯。 そして透かして見える内包していた苦悩。 作品を再読する度に、その作者の生き方と死に方とが作品にオーバーラップし、 そして更に深い生と死の意味をみいだす。 それが決して、私の理想ではないけれど。 それは多分、彼女の目を通した現実だけど。 私は知っている。私は学習する。 そしてまた鮮やかな思いが胸に閃く。 熱くもなく、冷たくもなく、ただ鮮やかに。 あらすじ。 各話幕合 図書館にて 気難しい司書が二人の学生の問いに答えて本を渡す。 「地球人」が「銀河連合」との出会いを経験した前後の時代の本を。 その中に込められていた物語は…… 第一話 たったひとつの冴えたやりかた - The Only Neat Thing To Do - 宇宙! ただ宇宙に行きたい! 機会を掴んだオテンバ娘は、 チャンスを無駄にしなかった。あれほどこがれていた冒険! その為の準備だっておこたりなし! そして出会うハプニング。 待ち望んでいた「冒険」が本当にはじまる! 第二話 グッドナイト、スイートハーツ - Good Night,Sweethearts - アウトローにはアウトローの生活があった。青春があった。人類は馬鹿で、 結局宇宙に出ても暗黒街はあった。勢力としてそんな「暗黒国家」 の育つ宙域の端で、主人公はかつての青春と再び出会う。 それも思いもかけない形の連続で! 第三話 衝突 - Collision - 探査船に乗っていた皆は、はじめ自分らの気が狂ったのかとカン違いした。 自分の身体がまるで気持ち悪く感じる。本当の俺/私はもっとカンガルーに似た 身体と体毛を持っているはずなのに!? ……それはファーストコンタクトのヨチョウだったのだ。 やがて見えてきた星は電気の光と宇宙船に輝くばかりの文化圏だった。 だが、不幸なのは、これが彼らと人類の最初の接触ではなかったことだ、 「暗黒国家」が、あの海賊社会が彼らの文化を荒していたのだ。 「敵種族」とレッテルを貼られた人類に、 そして言葉も半ばしか通じぬ異世界に、それでも冒険家達は命をかける。 ある銀河図書館に収められていた「お話」であり「歴史書」 であるこれら三つの物語は、その終りにいつも哀しいまでの稲光を内包している。 あえて言うなら、第二話はまあ外していいかもしれない。 でも、第一話は外しちゃ駄目。 第三話も好みがわかれるかもしれない。 でも、第一話は外しちゃ駄目。 |
そして以後、わたしはこの「死者」を追跡する事になる。
既に、この人の「新作」は存在しないのだ、と、
相互に作用する機会は全くないのだ、と、
強く認識しながらその足跡を追う。
おそらく初めての経験だったろう。
その経験と感覚はとても貴重ではある。
でも、進んで味わいたい味でもなかった。
それでも追いかけた。
愛はさだめ、さだめは死 | ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア |
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WARM WORLDS AND OTHERWISE |
James Tiptree, Jr. 一九八七年発行 1975 ISBN4-15-010730-0 |
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目次。
短篇だと尚更。文字数制限の為か、とにかく飾りがない、とでも言う所がある。 そして、そうやってダイエットした文字を、感性のフィルタで単語にして述べる。 結論、一見ついていけそうな、いけなさそうな文が並び、時に訳が判らなくなり、 そして最後に全部が判る。 判りやすさにおいて、文字数制限の緩やかだった中篇 (「たったひとつの冴えたやり方」)の方が、 入門というかとっかかりには良いと思う。 で、この本は、どちらかと言えば上級者用。 判らなさみたいなのは数冊あるティプトリーの中で屈指だと思う。 この本の中で一番有名なのは、私の覚えている限りでは 「接続された女」 だろうか。よく名作とうたわれてあちこちで推薦されているし、 外国ではテレビドラマにもなったそうだ。 私的には、よくある話を独特の風味で焼きあげたな、という感慨はあるものの、 飛び抜けてすばらしいとも思わないのだが。 同じ様にネタはそうでもなくても、その風味でもう逸品と思っているのが 「エイン博士の最後の飛行」 である。なんというか、読んだ後、「やられた」という感慨が突き抜けて、 暫く呆然した部分があった。 馬鹿っぽいというか、とにかく笑ってしまったのは 「恐竜の鼻は夜ひらく」 。これ、なんていうか、別の本に収録した方がいいんじゃない? と思ってしまう程、私的には異色。 珍しくギャグ落ちというか、そんな感触だった。 |
あるいは、
「答のない会話」なのかもしれない。
いや、従来だって、生者に対してだって、結局はそれは
「答のない会話」なのだろう。
だけど、よりシンシに、私は「会話」してた気がする。
している気がする。
ある種の覚悟と共に、読んでいる。
老いたる霊長類の星への賛歌 | ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア |
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STAR SONGS OF AN OLD PRIMATE |
James Tiptree, Jr. 一九八九年発行 1978 ISBN4-15-010826-9 |
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目次。
いや、この本に限らずで語ると、むしろ初期のティプトリーは 「男らしい」話を書いていた感じがある。 それが一転して「女の代弁」になる。でも、そこに違和感はない。 表裏一体の関係が両者にはあるからだろう。 つまり、男を描く事によって、彼にしいたげられる女達を。 女を描く事によって、彼女を取り巻いている男達を。 なんだかうまく言えないのでくどくなるが、 「男らしい男」を書いたのと同じ筆と調子で 「男らしい女(偽物の女)」を書いたのでも、 「女らしい男(偽物の男)」を書いた筆で 「女らしい女」を書いたのでもない。 両方というか、その関係を通して見つめているみたいな所が、いい。 それは、両方をまとめてしまって「人類」への絶望とも思える。 話を本編に戻すと、これも(男の私から見ると) フェミニズムに女性を描いていると思える「汝が半数染色体の心」。 なんとなく「恋人たち」や「合成人間22X」などを思い出してしまった。 |
読み進むうちに、わかってきたことがある。
いつのまにか認めていたことがある。
ティプトリーの死を、である。
それを理解と呼ぶのはおこがましいだろう。
ただ、その行動の必然を、必要を、いや、そんな強制的なものでは、
運命的なものではない。
そう、その「選択」を、受け入れている自分に気がついたのだ。
彼/彼女にとって、それは自然なことだったのだ、と。
闘争なのか、逃避なのか、呈感なのか、それはわからないけれど、
無理をしての選択ではなかったのだと。
してみると、やはりこれは「会話」だったのかもしれない。
「コミュニケーション」だったのかもしれない。
故郷から10000光年 | ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア |
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TEN THOUSAND LIGHT-YEARS FROM HOME |
James Tiptree, Jr. 一九九一年発行 1973 ISBN4-15-010924-9 |
目次。
と、そう思ってしまうのは、やはりタイトルのせいだろうか。 「ビームしておくれ、ふるさとへ」といい、 「ハドソン・ベイ毛布よ永遠に」といい、どうにもならない寂量感がある。 届かない故郷への思いを溢れさせる外国人がいる。 この「届かない」のあたりが、なんとも痛くて、やりきれない部分である。 自分は外国人である、という、そのハグレの感覚もまた焼き付いている。 そのあたりとの繋がりがあって、 なんだか感覚的には鮮やかに残っているんだけども、 理性ではなんのこっちゃみたいなSFが「苦痛指向」。 日常生活の中でつきまとう違和感。これもまた、ティプトリーのキーである。 |
この作者の作品は、「面白い話」ばかりではない。当然出来不出来がある。
にも関わらず、どの作品にも、同じ「魂」が流れて見える。
どの作品にも「血」が見える。
ふるびない。私にとっては。
おそらく、いつになっても、
ふと手にとって再読を繰り返していくのだろう。
星ぼしの荒野から | ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア |
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Out of the Everywhere and Other Extraordinary Visions |
James Tiptree, Jr. 一九九九年発行 1981 ISBN4-15-011267-3 カバー・たまいまきこ |
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ネビュラ賞受賞。 目次。
全体と比較して思うに、ちょいと捻りの入った、皮肉な感触がある。 変化球っぽい味がある、と言えばいいだろうか? ティプトリーの話はどれも素直な球ではないが、それでも、 なんというか直球の感触が今まではあった。 とにかく自分の思う所にまっすぐに投げ込んでいる、とでもいう。 それが他人に理解されようとどうしようと、ね。 それに悲観も今までにはあった。けど、それは、 こう、背筋を伸ばせて語る様なもので、唇の端だけ持ち上げて笑う様な、 そういう味ではなかった。 あるいは「笑い」を目指した結果なのかもしれない。 良い悪いの判定はちょっとつかない。 とにかく、そういう味の筆頭としては 「天国の門」 「ラセンウジバエ解決法」 「時分割の天使」 という所だろうか。どういえばいいのか、登場人物がカモにされている話。 これが 「おお、わが姉妹よ、光満つるその顔よ!」 となると、 同じカモでも、従来私の知っているティプトリーの味にかなり近いし、 更にこれをむきだしにすると 「ビーバーの涙」 へ達すると思う。 「星ぼしの荒野から」 は長さで言っても力作だとは思うが、何故か読後にピントが少々薄い。 新規性みたいな所にとぼしかったのかもしれない。 だが、宇宙を目指す夢見人としては、外せなくもある。 私の魂の中にもイクバクかのカケラがあればと思う。廃人になっても。 ところで。 表紙の女の子はどの物語の誰でしょうか。 |
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