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HAYAKAWA's beautiful girls Project No.02

<<早川美少女計画 2>>

一億総ハヤカワ化計画分室
原案・未谷おと 監督・一歩


星の海のミッキー
Barbary
ヴォンダ・N・マッキンタイア
Vonda N. McIntyre
一九八九年発行 1986

[Barbary](sf0850) 訳者・森のぞみ / Nozomi Mori
ISBN・010850-1
 12歳の少女バーバリは、ようやく夢にまで見た宇宙ステーションに行けることになった。新しい生活への期待に胸をふくらませるバーバリ。けれどもシャトルに乗りこむ彼女の上着のポケットには、ちっちゃな秘密が隠されていた−−大好きな子猫のミッキーを、こっそりしのばせていたのだ。たとえ宇宙に行ったって、ぜったいこの子といっしょにいたい。でも、もし見つかったらどうしよう……?
 元気いっぱい夢いっぱいの、かわいい少女と子猫が星空を走りまわって大冒険!
<初刷カバー裏解説ヨリ>


目次
  1. 少女漫画的思考による星の海のミッキー
    いあはーと氏98年7月寄稿
  2. ハヤカワ的思考による星の海のミッキー
    一歩



少女漫画的思考による星の海のミッキー
By いあはーと


 星の海のミッキーは面白い。
 だけど
 星の海のミッキーは異質だ。

 何がって、普通のハヤカワSFとは決定的に違う、何か根本的なところでSFの道を踏み外したような、そんな感じがする。
 たとえば、Ju87の足回りのかっこ良さとか、二号戦車の機能美とか、零戦や97式艦攻の柳腰がかもしだす官能美とか、そういったものについて語り合うベースの上に突然、「やっぱF14よねー」なんて言い出すくらい、ハヤカワSF従来のベースから踏み外している。
 たとえば、どんなに雰囲気や文体がちがっていても、たとえギャグと悲劇くらい異なっていても、伝奇ものを読めば伝奇もの、戦争ものなら戦争ものの、ベースがある。
 「歌う船」でも、「タウ・ゼロ」でも、作品の主題や設定、雰囲気がぜんぜんちがうにもかかわらず、「ああ、ハヤカワSFっていいねー」と思わせる何かがあったのだ。
 だけど、ミッキーは違う。
 断じて、ハヤカワSFじゃない。

 では、この「星の海のミッキー」が持つ雰囲気に一番近い創作カテゴリとはなんなのか?

 前置きが長くなった。
 いってしまおう、それは少女漫画だ。

 あ、読むのやめないで……

 だいたい、登場人物が女の子。
 舞台が宇宙であるにもかかわらず、物語の主眼は「コンピュータ」でも、「宇宙生活」でも、「新しい宇宙時代のダンス」でもない。
 ねこってかわいい☆
 友達っていいね☆
 である。

 少女漫画といわずしてなんといおう。

 俺をひきつけてやまない、この「うふふふ」って読後感。
 おなじ少女漫画でも初恋うんぬんといったりぼんマスコットコミック系というよりは、わかつきめぐみや、川原泉、岡野史佳といった感じの、花とゆめ系のしあわせ。
 あー、いいー(恍惚)

 解説にあるように「猫SF」というのも一理あるしもっともだとも思うけど、それはあくまで二次的なものだと思う。
 重要なのは、「女の子二人組の織り成すドタバタ劇場」であるということなのだ。

 だって、仮にこの物語において「ミッキー」という小道具が、仮に小鳥でも自律型ロボットにでも代わっても、似たような展開の似たような話は作れる。
 つまりぶっちゃけた話、「猫」でなくったって似た雰囲気の小説は成り立つのだ。
 だけど、「主人公が思春期手前くらいの女の子」を外すと、そもそもこのストーリーは存在し得ない。
 しかし、たとえば「シェルパーソン」の存在しない「歌う船」なんて考えられない。
 それは、歌う船シリーズの骨格が「シェルパーソン」達だからだ。
 つまり、「星の海のミッキー」の骨格になっているのは、猫でもなく、宇宙ステーションでもない。
 物語の骨格を作っているのは「女の子」であって、他のはみんな気の効いた小道具でしかないのだ。

 んなハヤカワSF、他にあるわきゃない。
 やっぱし少女漫画。

 わりとおとなしめの性格の主人公に対し、主人公よりちょっとだけ頼れる友人、という図式は少女漫画ファンの感性にわりと直接訴えててくる。
 たとえば、「So what?」の阿莉とライムみたいなの。
 この人間関係がいいんだよなあ。
 だからこそ、SF入門者であった俺や友人はこの話に「いいねぇ……」と唸ったのだ。
 ついでにいうと、「ああ面白かった」でも、「じんとした」でもなくて「いいねぇ……」ってのも重要。
 ついでに、この作品を妙に気に入ってしまったやつは、俺の知ってるだけで、俺、友人、そしてここの大屋さんである一歩さんと、みんな少女漫画にはまっているやつばっかりだ。
 逆にいえば、この話が好きになれたら、少なくとも花とゆめ系少女漫画にはまる可能性があるということだ。

 さて、この「星の海のミッキー」のキャラクターで最も魅力的なのを挙げろといわれれば、俺は迷わずヘザーを推す。
 なぜって?
 もちろん、ショートカットだから。

 ひと粒で二度おいしいキャラクターなのだ。
 なぜなら!

 「ショートカットの女の子」というカテゴリの大きな位置を占める設定として、「ボーイッシュ」というのがある。しかし、もう一つ「清楚ではかなげ、病弱」という設定グループも忘れてはならない。
 そこでこのヘザー。
 普段はボーイッシュ。活発。一般的なツボ押さえてる。
 しかし!
 この娘は心臓が弱く、重力の強いとこに行くとたちまち病弱な女の子に変身するのだ。
 まさに、一粒で二度おいしいキャラクターなのである。


 星の海のミッキーは、すばらしいアイデアとか、巧みなシナリオ展開、なんてものはない。
 ただひたすら、宇宙に行って、猫とどたばた、友達っていいなー
 というだけのストーリー。
 できれば一冊で終らずに、このままだらだらと続けてほしかったところだ。
 それこそ月刊誌の少女漫画みたいに。
 でもなければ、岡野史佳あたりに「ララ」で漫画化とかね。
 んで、新キャラとか出して二年ぐらいだらだらいってもらうと最高。(この物語の中では唐突に異星人が出てくるというイベントを起こして強引に話を終らせているけど)


 いろいろ書いたけど、この「星の海のミッキー」は、まさに美少女SF界に燦然と輝く金字塔……と、思ってるんだけど、どうでしょ?




ハヤカワ的思考による星の海のミッキー
By 一歩


 某月某日。私はいつもの様に早川文庫SFの布教活動をしていた。 それにうまくひっかかってくれたのがご存知いあはーと氏である。 「こんな話もあるよ」と面白おかしく粗筋を教えては、 「な、楽しそうだろ? 一度読んでみろよ」とそそのかしていたのである。 その甲斐あって彼は私から本を借りる気になり、 私は即どっさりとハヤカワを貸し与えたのである。
 数冊読んでの彼の反応は「一歩さん、詐欺だ!」という、 誠に心外なものであった。
 ……どうも詳しく話を聞くに、私の語る「粗筋」というのは、 非常にギャグコメディの色が濃く、彼としてはライトノベル系列、 もしくはギャグ漫画系列を想定しての「貸して下さい」だったらしいのだ。
「あいた、それは悪い事をしたなあ。……でも、嘘は言ってないだろ? 嘘は」
「確かにね! 嘘は言ってません! でも、でも、全然話が違うぅう〜〜」
「なんだ。面白くなかった?」
「面白かったから問題なんですよ!!」
 (笑)。してやったり、である。

 それから暫く時間が経った。
 彼がある日、サークルBOXに現れて唐突に言うに、
「一歩さん、ヘザーがイイっす! 俺、もう、ツボ!」
「……
 そう、私が紙袋一杯に貸し与えた本の中には、 「星の海のミッキー」 も入っていたのである。

 あれからもう何年が経ったのだろう。
 彼も私もルーズな性格のせいか、彼に貸した紙袋の中身の半分は、 まだ彼の下宿の本棚である(笑)
 読んではいるのだが、返すのを、及び返して貰うのをすっかり忘れているのだ。
 今回もここに上げる為に自分の本棚を探して見つからず、 ようやく彼に貸していたのを思い出した次第。早速連絡を取るに話が進み、 表紙の画像データだけでなく、原稿執筆までしてくれる事とあいなった。
 そして送られて来た原稿は、皆さんご存知の通り、 彼の思い入れたっぷりの非常に素敵なもので(笑)
 すわ、これは本家としては黙っておられまい、私も何か書こうという次第。 とはいえ、言いたい事はだいたい言われてしまった感もあり(笑)
 共感する所も多いが、あえて少女漫画ではない「ミッキー」という視点から、 これから何か捻って書こうと思っている……

 まず、これが何ゆえに少女漫画ではなく早川SFなのか、 という所から切り込んでみたい。
 それは「バックボーン」である。設定と言ってもいいし、 作者の思想と言ってもいい。
 主人公バーバリの出だしの回想を見ればいい、 彼女が決して平面的に与えられた人格ではなく、子供ながらに「過去」 を背負っているのを見るがいい。 そこには一人の傷つきながらも背を伸ばそうとする少女、という以上に、 社会批判の目が潜んではいないか。
 ヘザーが自分の体を語る所を見るがいい、 そこで彼女は、「私の体は1Gに耐えられない」と語るのではなく、 「だから私の両親は、私の為にコロニーの、 それも低重力区画で暮らす決断をしたのだ」と語る部分を。 そこにあるのは「彼女は病気」という設定だけではなく、 「両親をおもんばかる」という部分が、そしていわば 「両親に通常以上の負担をかけねば自分は生存できないのだ」 という捻れが聞こえてはこないか。 それはひょっとしたら神様に対する抗議かもしれないし、 おためごかしな福利厚生への抗議だったのかもしれない。
 「近付く謎の物体」の為に慌てふためき、いやそれ以上に、 でしゃばってこようとする門外漢達を見るがいい。あの硬直性、頭の硬さ、 そこに批判の目はないだろうか。
 そして異星人達の発想を。バーバリがヘザーの為にと問うた質問を。 相手を直視せず、なんらかの期待として、 ステロタイプを投じて相手を見てしまう、良きにつけ悪しきにつけのその 「フィルタをかけてものを見てしまう」人類の特性を。
 常にどのシーンでも、裏を返してカーペットの下を覗いてみれば、 その作者の「疑問提起」、又は「批判」が見えては来ないか。
 だからこそ、これは早川SFなのだ。
 そして。
 コロニーのトップたる女性が、バーバリに語りかけた最後の台詞を見るがいい。
 狭義には、男性社会に対する女性達の抗議の声として。 (この「女性の声」という側面はマッキンタイアさんの前作 「夢の蛇」 ではよりクリアになってるし、 この時代の女性SF作家全てに通じる底流でもある。 が、まあ、流行、と捕らえてしまえる所もあると私見する。ので、狭義。)
 広義には、男女を越えた全ての人々に対する努力の賛美として。
 だから、これはSFなのだ。

 まあ、とはいえ、これがあくまでもカーペットの裏、 二次的な話であるという事に私も文句はない。
 この話の本筋は、確かにはっきりきっぱり絶対確実に、「一人の少女バーバリ」 の楽しい冒険譚なのである。
 クラークばりの宇宙やコロニーの描写、だがクラークの描き方を 「大人の視点」とすれば、 バーバリはしっかりと「子供の視点」でそれを描き、 故に私の心により鮮やかにその景色を映してくれる。
 そして、ポケットの中の小さくて暖かい重み。
 個人的にツボなのは「ナポレオンの真似」あたりで、 あのへんから私はもうクラクラと来てしまって
「イイ!」
イイ!
 と、いあはーと氏と会話にならない会話をこなす所まで墜ちて(笑) しまう訳である。


 とっころで。
 『岡野史佳あたりに「ララ」で漫画化』!!
 これ、いい! ぜひ欲しい!(笑)
 ううん、見れば見る程にいいアイデア。是非実現して欲しいものだ。
 ここで 岡野史佳(俺的代表作「1/2FAIRY」) というのが又ベストチョイス。 私としては わかつきめぐみ(俺的代表作「ぱすてると〜ん通信」) を筆頭にあげたい所だが、あの人のキャラに特有の 「ぱよ〜ぉん」という感覚はバーバリやヘザー、いや、 他のどの登場人物にも無いからして、少々フィールが異なってしまう。 その意味においては、 川原泉(俺的代表作「甲子園の空に笑え!」) においても、 竹本泉(俺的代表作「ねこめ〜わく」) でも無理がある。 ゆうきまさみ(俺的代表作「究極超人あ〜る」) は元気のベクトルが少年漫画だからして、 このパステルトーンな色は出にくい。 えっと、山口みゆき(俺的代表作「V☆Kカンパニー」)、だっけ?  あの人でも同様に元気過ぎというか、不思議味が足りないというか……
 うむ、やはり、岡野史佳しかあるまい。
 ……あ! まてまて、 ふくやまけいこ(俺的代表作「ゼリー・ビーンズ」) はどうだ? ……ああ、駄目かなあ。 あのスレッからしというか、すねた人物造詣な所って、 ちょっとふくやまけいこには無理かもしれないよなあ。
 やっぱり岡野史佳。
 『岡野史佳(指名)に漫画化!!』
 投書しよっかなあ(笑)





 ……今、思いついた余談。
「○○(SF小説)を○○(漫画家さん)に映像化してもらう/いたい!」
 というのをつのる企画、というのはどうであろうか。
 非常に俺としては、その、好みな企画なんだけど(笑)
 既存を取り上げるなら、 「未来の二つの顔」を星野さんがやってたりとか、 萩尾さんが一連のレイ・ブラッドベリを手掛けてたりする所とか、 その辺りが俺的にツボでしたね。


発掘 Reference
  1. 「GROUND ZERO」内


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