イエメン「シバ女王の国、サムサラの夢」

 

 アラビア半島の西端に位置するイエメンは、今から何と3000年以上昔に栄えた、シバの王国のあった所。そこに君臨したシバの女王は、その地の豊かな農作物とインド洋を渡り運ばれてくる香料などの通商で、他に例を見ない隆盛を極める王国を造り上げた。
 その女王の美貌と知性の噂を耳にしたソロモン王は、シバの女王を自国に招く。再度の誘いに折れて訪れたシバの女王を、磨き上げた石の道で迎えたソロモン王は、そこに映った女王の脚の美しさに魅了され、結婚を迫り、やがて二人は一つの王国を統治する王と王妃になる...
 ほぼ14世紀に渡って続いたこのシバの王国は、航路の発達や周辺の列国との戦いで少しづつ衰退し、ルブアルハリ砂漠の中に滅んでしまう。が、イエメンの首都サナアの東100キロの砂漠に、このシバの王国の王都マーリブが現在も残されているのだ。
 崩れ掛けた砂の摩天楼の建つ、現在のマーリブは、紀元前の古都の上に何度か積み重なれて造られた数百年前のもの。が、少し離れた砂丘の中にはシバの女王の神殿の柱が、3000年前そのままにただずむ。砂の中に真っ直ぐに建つ6本の柱は、時間と空間を越えたシュールな迫力で迫ってくる。
 シバの女王が建設し、それ故にこの不毛の砂漠に豊かな緑を生み出した壮大なダムは、今も原形をとどめながら3000年の時の流れを塞き止めている。ダムの巨大な石組の上に立つと、廃墟となったマリブ、神殿の柱が、ルブアルハリ砂漠からの砂風の中にミステリアスな残像のように浮かび上がって見える。
 砂の地平線を連なって進むラクダの群れは、シバの女王をソロモンの元に運ぶキャラバンだろうか... イエメンの首都サナアは、約聖書に登場するノアの息子サアの築いた都とされている。1990年に南北が統合されたイエメンの首都として、活気が溢れている。その旧市街地には,泥れんがを積み重ね、石灰で窓枠などを白く塗り込め、鮮やかなモザイク窓をはめ込んだ独特の家屋が連なる。
 かつてキャラバン隊が宿泊したサムサラは(1階はラクダ舎と店で上が宿という造り)、現在はほとんど商店や住居になっている。かつてその通商で富を得た商人の豪邸を、改造したホテル。頑丈な石壁に守られたアーチ型の門をくぐると、中庭と昔のラクダ舎がレストランになっている。 大小様々な客室が20室。白い漆喰壁に塗り込まれた壁に、ステンド・グラスの色が艶やかに映える。夜とんもなると、真鍮のランプ(実は電灯)が、ほのかに周辺を照らす。そして、かつてキャラバン隊が遥か海と砂漠を越えて運んだとされるフラグメンタインの香がホテルの中に静かに満ちる。
 窓から外の通りを眺めると、月明りがミステリアスな路地を照らすばかり。まさに、千夜ー夜の世界に迷い込んだかのよう。