「お医者さんたちは、もしリーがあと36時間生きていられたら、かなり生き残ることができるだろう、と言っていました。その36時間は……何というか筆舌に尽くしがたいものでした」――リサ・アーノルド


 実のところ、真実は「3パーセント以上」で示せるほど単純ではない。

 風の強いある土曜の午後、両親に連れられて、3歳のセドリック・ミラーは、サン・アントニオのアパートのプールで脚をぶらぶらさせていた。ふわふわした髪で、内気なセドリックは、実年齢よりも幼く見える。セドリックは、気管と食道が融合して生まれてきた。手術はしたが、固形物を食べられないので、体重は20ポンドしかない。身体的な問題としては脳水腫があり、心臓が違った場所にある。しかし、それ以外に何かがないことは、一目でわかる。

 セドリックは、ケイシー・ミンズと同じように、ゴルデンハー症候群にかかっている。左の顔は縮んでしまい、耳がなく、目が見えない。母親のビアンカは、出産前の検診で異常が発見されたときに「私たちが望んでいたことはみんなダメになってしまいました。セドリックはこんな目に遭うようなことを何かしたのでしょうか?」。

 元軍医のスティーブ・ミラーは、化学物質が自分の精子を破壊したと考えている。そして、統計的な証拠を手にしていると信じているのである。「ゴールデンハー症候群で、我々にはクラスターがあるのです」

 “クラスター”とは、不快感が他のグループよりもあるグループの人たちに多く襲いかかるとき、疫学者が使う用語である――そして、その現象は、先天的障害を起こす可能性が高いことを示す指標ともなりうる。先天的障害児協会(ABDC)は、最初の欠陥のクラスターは米軍湾岸復員兵の子供たち、つまり重度のゴールデンハー症候群のある10人の赤ん坊たちから発見されたと述べる。ABDCの事務局長ベティ・メクデキによると、それは通常、2万6000人に1人にしか起こらない状態である(もう一つの例としては、英国で湾岸関係病の苦情を600人の復員兵が申し出ているものがある)。これまでに163人の病気の湾岸戦争ベビーたちのデータを集めたABDCは、さらに可能性の高い4つのクラスター――左心形成不全症候群、心房隔壁心臓欠陥、小頭症、免疫系欠陥に関するもの――を追跡している。意味深いことに、ABDC調査における親たちは一人として、これらのタイプの先天的な障害があったという家系ではない。つまり、メクデキが表現するように、「耳のおかしい親族は全然存在していない」のである。

 クラスターが起こっているかどうかの証明を難しくしているのは、だれも――メクデキも、国防総省も――どれだけの赤ちゃんが湾岸復員兵に産まれたかを知らないということである。昨年10月の初期の調査結果で4万人が生まれたという国防省自身の統計がこれまでで最大規模のものだが、軍病院からのデータだけによっているため、完全というにはほど遠い。国防総省のジョセフ博士は、近刊の報告書には「最善かつ広範囲の情報がある」という。そのとおりのものかもしれないが、国防省の科学者が厳密な結論を本当に求めているかどうかは疑問として残る。今年はじめ、ジョセフ博士がLIFEに語ったのは、小児科医として訓練されているけれども、完全には「ゴールドハヴァー(金持ち)だかゴールドハート(金の心臓)だか何だか」にはまったくなじみがないということである。こういう回答が、病気の子供を持つ復員兵たちを怒らせることだけははっきりしている。

 ABDCと国防省の研究に沿って、湾岸復員兵とその子供たちについての30以上の他の研究が進行中である。一つはすでに継続していない。それは上院銀行委員会によるもので、昨年、委員長ドン・リーグルが引退したときに中断された。400人の病気の復員兵はすでに委員会の照会に答え、戦争後、なんと65パーセントが先天性障害や免疫系の問題のある子供をもうけていたのである。

 リーグルはいなくなったが、悩める湾岸戦争家族のためにワシントンで戦っている人たちが数人いる。一人はロックフェラーだが、ここ数ヶ月は影響力を失っている。昨年の共和党の地滑り的圧勝のあと、湾岸で使われたPBとワクチンに関する1994年のレポートを提出した復員兵問題委員会の委員長を退かされたからである。新しい委員長アラン・シンプソン(ワイオミング州)は、「厳密な科学的なものが出るまでは」何の行動計画も立てない、と補佐官の一人は述べている。

 それから、ヒラリー・ロダン・クリントンがいる。1994年に出た、症状のある復員兵のための給付金法令を完遂することによって焦点の人物となっているが、湾岸戦争症候群患者の友と自認している。8月14日、症候群についての大統領諮問委員会の開会で、ヒラリーは宣言した。

「戦争に送られるときに我々が軍団を信頼したのとまったく同じように、今度は我々が彼らの信頼に足ることを保証しなければならない」

 ホワイトハウスの真相究明者が何を発見しようとも、湾岸戦争ベビーたちが政府の援助を受けられるという保証はない。現状では、兵士の子供たちが無料医療を受けられるのは、どちらかの親が軍にとどまる間に限られている。民間生活に戻った両親にとって、先行きは厳しい。さらに、初期の軍での健康に関する不平についての政府の記録はほとんど残されていない。

 たとえば、1950年代の放射線実験に知らないうちに使われた兵士たちは、1980年代まで保証のために復員軍人局と闘わなければならなかった。ベトナムの復員兵は、エージェント・オレンジ(枯葉剤)の損害を隠すために科学者たちが証拠を処理したと主張している。「防疫センターはデータを実際にゆがめた」と、枯葉剤による息子の致命的なガンを非難する退役海軍提督エルモ・ツムワルト・ジュニアは言う。ベトナムの復員兵は、エージェント・オレンジ工場から81億8000万ドルの和解金を勝ち取ったが、1984年以前に終わった。

 湾岸復員兵は「圧力をかけ続ける必要がある。エージェント・オレンジの場合――それは砂漠の嵐症候群でも起こるに違いないと思うが――いかなる危険な効果についても責任があると主張する仲間は、圧力団体の中に出てくるはずだからだ」とツムワルトは述べる。

 いくつかの砂漠の嵐一家は比較的幸運だった――たとえばクラーク一家は、研究対象として空軍医が推薦してくれたために、娘が1996年11月の間、無料の治療を受けることができた。しかし、その他多くの家庭では、「先天的条件」は保険適用外であるとして拒まれている。彼らは貧困に追い込まれている。公共医療補助が困難な負担の役に立つようにと生活補助に頼る人もいる。「百万長者になる人でも、この子供たちの一人として救う方法はないのです」と、リサ・アーノルドは言う。

 ベティ・メクデキは、アーノルドのような家族のための特別保険資金を米国議会が設定すべきだと考えている。「治療の保証を与えられるべきこの人たちに、私たちはほとんど何もできていない。私はそのための特別税であれば、喜んで払いたい」と語る。

 ダレル・クラークは言う。「私は腹が立つし、落胆し、悲しい。『おそらく私たちは過ちを犯した。あなたが生活を続けるためにどのようにしたらいいでしょうか』と話す人がだれもいないというのは不幸なことだ」

リー
脊柱の水腫のため、
脚が損なわれている。
彼女の上半身は弱すぎて、
車椅子の敷物より前に
体を押し出すことができない。
骨格を鍛えるために、
直立するような装置で
何時間か過ごす。
お兄さんのネイサンと
ジョーイは、どちらも
戦争前に生まれて、
健康だ。
お母さんのリサは言う。
「男の子たちは
リーの面倒をよく見てくれるので、
リーが病院に行くときには、
学業が犠牲になってしまうんです」

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