2002/11/3
実はちょっと前に"HEARTS IN ATLANTIS"をビデオで見たのだが、例によって字幕がなかったので、内容がさっぱりわからなかった。今まで、英語がわかって見ていたわけではないことが判明。私は不思議な力で内容を理解していたらしい。(←うそつけ)
この話はそんな不思議な力を持つ老人と知り合った少年の物語……って、別に字幕なしに内容がわかる能力じゃないけどさあ(笑)。
とにかく、話がよくわからなかったので原作を読んでみた。『アトランティスのこころ(上)』(スティーヴン・キング、白石朗訳/新潮文庫)。
上、ということは下巻もあるわけで、実はそんな大河ドラマだったのね。
内容は文庫の裏表紙から……と、思ったら、よくわからない文章なので、映画のプレスから拝借しよう。(一部変更しました)
ボビーは、母リズと2人で暮らしている。11歳の誕生日のリズからのプレゼントは、図書館の貸し出しカードだった。ボビーは自転車の欲しいのに。母は自分が着る最新流行のドレスにはいくらでもお金をつぎ込んでいるのに。
そんなボビーの毎日に、一人の老人が現れる。彼の名はテッド・ブローティガン。2人の住む家の2階に下宿することになった彼は、どこか謎めいた男だった。落ち着いた声でゆっくりと話し、驚くほど知的な彼は、ある日ボビーに言う。「きみに頼みたい仕事があるんだ。もしかして自転車を買えるかもしれないよ」 と。テッ ドが週1ドルでボビーに与えた仕事は、目の悪くなった自分の代わりに新聞を読むこと。そして「よく周りを見て、感覚を鋭敏にしておく」ことだった。
このテッドを演じるのががアンソニー・ホプキンス。
映画だと、吐き捨てるように「タダだからさ」と言われていた図書館のカードだが、原作では結構ボビーに喜ばれている。ボビーは読書少年で、その大人の本への極上の案内をしてくれる男……というのが、原作のテッドの役割なわけっすね。
出てくる本がシマックの『太陽をめぐる輪』だったり、一緒に見に行く映画が『光る眼』だったりするので、「アナタはSFオタですか?」とテッドに言いたくなるのがご愛嬌。
テッドの言葉は、たぶんスティーブン・キングの「書く姿勢」なんだろうなあ。キングの少年時代が投影された作品、というのは本当だと思う。実際にキングにテッド的な人がいたかどうかはわからないし、何人かの合体なのかもしれないけれど。
『スタンド・バイ・ミー』を読んだとき、胸の痛い少年時代のアンコールを感じた。過ぎ去った少年時代を語るキングの語り口は、いつもとても感傷的だ。
ちょっとだけ文章を引用しとこう。ボビーが観覧車のてっぺんでファースト・キスをするくだりね。
ボビーとっても正真正銘のファーストキスだったし、押しあてられたキャロルの唇の感触は忘れられそうになかった――乾いていて、なめらかで、日ざしの温もりをたたえていた唇の感触は。それは一生を通じてほかのキスの良否を判断する基準となるようなキス、おなじようなキスを求めつづける目標となるようなキスだった。
下巻を読むのは、ちょっと休んでから。
京極夏彦とは違った意味で、内容がみっしりした作家だわ(笑)、キングって。