文学雑誌「メランジュ」web版 |
編集室より 詩 「夜に咲く花[日]」/ 小説 リレー小説 |
アドニス・ブルー(7)
彼は大和がいつか話していたビルの前に立ち,その高層建築を見上げた。 この1階のロビーの中。 自動ドアが開いて中に入る。 ──間違いなく俺の絵や── 人の出入りが耐えない通路の中で1人,耳を澄ませる。 時を刻む音が向かい合っている虹の絵の方から微かに聞こえてくる。 ふと受付の方を振り返ると,斜め上に音のする筈のないデジタル時計があった。 彼はそのままビルを出ると,向かいに建っていたビルの2階の喫茶店に入って外がよく見える窓際の席に腰を下ろした。 ──さてと,のんびり見物といきますか── 彼は日中から頼んだビールを一口すすった。
11時30分。あと30分。 何の変哲もない晴れた日。
ふと気づいて店内に掛けられた時計を見ると,11時50分を過ぎていた。 ビルの前を沢山の人間が歩いている。 その中で見覚えのある人影が,遠くの方からビルの方面に向かって歩いてくるのが見えた。 ビルの画像が目に焼きつくほどに見ていた窓から目を離し,時計を見る。 彼は自分の席に正面を向いて座り直した。 彼は席を立った。 そして──混雑した店内を凄い早さで駆け抜けて出ていった。 そのとき既に2分前を切っていた。 夢中で階段を駆け降り,ビルを飛び出て,道路を突っ切って自動ドアに突進した。 彼はバッジの付いた上着を脱ぎ捨て,絵の前に駆け込み,おもむろに両手で額の下枠に手をかけた。 その瞬間,彼の全身を高圧電流が突き抜けた。 (終章(下)に続く) |
著作権 (c) 2001-2004 Writers' Group The 8th Continent. All rights reserved. |